サンシャイン水族館へインタビューしてきた【前編】
アクアルバム公式
2017/03/28(火)21:00
不定期にお送りする特集「アクアのプロへインタビュー」
今回は池袋サンシャインシティ内のワールドインポートマートにあるサンシャイン水族館さんで、水族館の気になる質問をしてきたので一問一答のような形でご紹介します。
一般家庭の水槽にも応用できるテクニックもいくつか教えてもらったので是非ご覧ください!
それが実はないんです。
皆それぞれ担当を持っていて、最初は分からないですけど、2、3ヶ月もすると愛着が出てきて自分の担当が1番になります。
担当の場所が変わることがあっても、また3ヶ月もすると情が移って、以前担当していた所が1番だと言っていたのに今度は今担当している所が1番と言うようになります(笑)
やっぱり世話しているところが一番愛情が湧きますよね。
多いです。それも割りと担当じゃない生き物を飼ってます。
例えば魚類を担当している人は家ではあまり魚類を飼っていなくて、小動物を飼っていたりします。
逆に動物を担当している人は魚を飼ったりしています。
やっぱり仕事の延長みたいになってしまうので、知識もノウハウもあるんですがそれを家でやると、これは仕事と同じだよなぁと思ってしまうので(笑)
─確かに、仕事で換水して帰ってきたら家の水槽換水とか嫌ですもんね(笑)
後、面白いのはプロの動物トレーナーで、イルカとかアシカとかなんでもトレーニングしているのに、家で飼っている犬はお手くらいしかできないとか。
やっぱり仕事の延長になってしまうので、家では何も教えてないみたいです。
ただ、もちろん皆生き物好きでこの職業についているので、家で飼う生き物はこの職業に就く前のほうがマニアックでしたね。
元マニアの人が多いです。
サンシャイン水族館には「南国のリゾート」「感動をお届けする」というコンセプトがあります。
そして、エリアごとにも例えば「珊瑚礁の海」等のコンセプトがあり、それぞれコンセプトに合ったレイアウトが基本になります。
まず、水槽の担当者がいるのですが、その担当者がこういう水槽にしたいという元案を出します。
それを、魚類の担当チームで話し合って決定しています。
後はもちろん飼育係とも話をして、例えばサンゴなら
「住んでる水深が違うから段差がないとダメだよ」
とか、
「この生き物は隠れ家がないとダメだよ」
等と相談して決まっていきます。
ちなみに、水族館ではなるべく水槽を広く見せるために
後ろの壁、水槽の角をなるべく見せないようにする
後ろのバックスクリーンもグラデーションを付けてる
という工夫をしています。
そうすると、角が見えないので奥行きが遠くまで続いているように錯覚し、水槽を広く見せることができます。
アクアリストの方も、例えばバックスクリーンを水槽の外に貼るのではなく、水槽の中にアクリル板を曲げて入れることで同じように工夫できると思います。
─アクアリウムでは水景を切り取ったようなイメージの水槽が多いけど、こういう広く見せる水槽も面白そうですね!
業者さんから購入することが多いです。
と言っても、熱帯魚屋さんから買うわけではなく、卸の業者さんから購入しています。
流通していないものなどは漁師さんからも購入しています。
ただ、漁師さんは捕るのはうまいんですがストックしておくことが苦手なので、一緒に行くパターンが多いです。
とは言え水族館では海から捕ってきたりどっかから買うよりは、なるべく自分たちで繁殖させるという目的を持っていて、繁殖例のない生き物にもチャレンジしたりしています。
全て解剖して、死因を調べています。
そしてもしそれがあっという間に広がりそうな病気だったらその水槽に治療薬を入れたりしますし、大きな魚や動物、肝臓が肥大していて異常だと思った魚などはそれ以外に病理検査を行います。
─そこまで徹底しているんですね
そうですね。
ただ長く生きればいいというだけじゃなく、魚達がより快適に、自然に近い状態で暮らせるようにと思ってそこは徹底しています。
基本的にはコンセプトがあり、優雅に見せたり、迫力満点にいっぱい見せたり、1匹だけを堂々と見せて注目してもらったり等のコンセプトに合わせた水槽になっています。
何匹入れられるかというのは、DOメーターで溶存酸素を見たりpHなどの水質を見ながら数を調節していきます。
─水質を見ながら数を調整するのは水族館も同じなんですね。水質的に大丈夫な範囲でなるべくたくさん入れようと思うこともあるんですか?
そういうのは無いです。見た時に一番栄える量にしています。
例えばイワシであればキラキラ感の群れの動きを見せたいというのが目的なので、それが達成できた時点でそれ以上は入れません。
コンセプトがありきですね。
イワシがぐるぐる泳ぎ回っている水槽。これだけの数なのでエアレーションにはかなり気を使っているらしいです。
自宅の水槽も同じように、まずコンセプトを決めてやると見栄えが良いと思いますよ。
私は何がしたい、何を育てたいというのをまず決める。
コンセプトが都度都度ズレていったり、お店に行った時にコンセプトが変わってしまうとゴチャゴチャの水槽になってしまいますよね。
─なりがちですね。分かっていても現実問題水槽の数が限られている一般家庭ではなかなか難しい…
海水は天然の沖合の方の海水を使っています。
淡水は水道水をハイポで中和して使っています。
そうなってくると気になるのは淡水水槽の水道代なのですが、さすがに金額的な部分は非公開ということでした。ちなみに、水族館で一番かかる経費はおそらく電気代との事です。
日中長い時間をかけて少しずつ注水しています。
排水はオーバーフローになっています。
汚れてきたら換えるのではなく、水質のいい状態を保つために常に少しずつ換水している感じです。
頻度は毎日だったり数日に1度だったりと水槽によって異なります。
圧力式濾過槽という物を使っています。
中身(ろ材)は珪砂のみで、そこに圧力をかけて水を通して汚れを取り除いています。
エーハイムなどの外部フィルターの中身が砂だけみたいなイメージです。
これがろ材に使われている珪砂。形、大きさ、コスト的にこれがベストなんだそうです。ボトムサンドや田砂みたいな感じですね
家庭の水槽で使われるような濾過と違うのは、ろ材の詰まりを圧力ゲージで確認できる所です。
水族館は生き物や餌が変わるため一定の汚れではありません。
なので定期的に掃除するのではなく、圧力計を毎日チェックして圧力に変化があったら(ろ材が詰まってくるとかかる圧力も変わる)掃除するようにしています。
逆に変化が無ければ掃除はしません。
掃除の仕方も、砂を取り出して洗うわけではなく、逆洗というやり方をしています。
普段は上から下に流れてろ材を通っている水を、逆に下から上へ吹き上げる事によって、中の砂が舞い上がり、砂は重さがあるため落ちていきますが、汚れは流れていきます。
それをバルブ操作でできるような仕組みになっています。
─逆洗めちゃくちゃ便利ですね!それにしてもろ材が砂のみというのは驚きでした。
やっぱり神経質なので、フラッシュは焚かない、周りで作業する時に大きな音を出さない等、とにかく刺激を与えないように飼育しています。
後はビニールフェンスを張っていて、何かの拍子で驚いて激突しても大丈夫なようにしています。
特にマンボウはパワーがある分激突した際の衝撃ももの凄いです。
・朝日が強過ぎて死亡
・海水の塩分が肌に染みたショックで死亡
・前から来たウミガメとぶつかる事を予感したストレスで死亡
これらは無いです、デタラメですね。
・近くに居た仲間が死亡したショックで死亡
・近くに居た仲間が死亡したショックで死亡した仲間から受けたストレスで死亡
これは言い方の問題なのですが、まずショックで死ぬってことはないです。
ただ、例えば2匹居たうちの1匹が死んでしまって、それを取り上げるためにダイバーが2、3人潜って作業をすることで、それにびっくりしてパニックになってしまうということはあります。
パニックで死ぬことはありませんが、パニックになったことで壁に衝突して傷ができてしまい、傷からバイキンが入って感染症になってしまって死んでしまうということは考えられます。
それを極端に言うと「近くに居たマンボウが死んだせいで死んだ」ってなってしまうかもしれませんが、間を端折りすぎなんですよね(笑)
・寄生虫殺すためにジャンプして水面に当たって死亡
ジャンプすることはありますが、それで死ぬってことはないです。
水族館なので、場所によって蓋があったりしますが、それに当たって死ぬってこともないです。
・まっすぐしか泳げないから岩に直撃して死亡
まっすぐしか泳げないってことはないです。
水槽を見ていただけるとわかりますが、しっかり泳いでいます。
・水中に潜って凍死
いくら下まで潜っても凍死することはないです。
・日にあたってたら鳥に突かれて死亡
これも無いと思います。
おそらく死んで浮いてたのを鳥が突いてたんじゃないですかね。
・寝てたら陸に打ち上げられて死亡
無いです。
弱ってたり元々死んでて陸に打ち上げられたりという事はありますが。
基本的に魚達は完全な睡眠というものはありません。
魚のタイプにもよりますが、人間と違って瞬間的に寝てる生き物が多いです。
例えば極端に言うと5秒起きてて1秒寝るを繰り返す脳のサイクルになっていて、人間みたいに何時間も寝るわけではないんです。
・食べた魚の骨が喉に詰まって死亡
これはありえると言えばありえます。
と言うのも、マンボウは自然界ではクラゲを主に食べているのですが、クラゲに骨はありませんよね?
魚を食べることはまずあまりないのですが、仮に魚を食べさせた場合はありえるという話です。
※サンシャイン水族館では甘エビとイカで作った柔らかい団子状の餌を与えています
─マンボウは自分から魚を食べることは無いんですか?
小さい小魚はあります。
ただ、その小魚の骨が詰まるということは無いです。
ありえるというのは大きな魚をもし食べさせたらの話ですね。
・エビやカニを食べることがありよく殻が内蔵に刺さって死亡
これも同じで、小さなものなら食べますがそれで死ぬことはありません。
仮に、大きなものを食べさせれば死んでしまうという話です。
・水中の泡が目に入ったストレスで死亡
ストレスで死亡することはないです。
ただ、魚の病気で気泡が目に入るという事はあって、それはマンボウにもあます。
なので、気泡が目に入って、死亡することはあまりないんですが、目が見えなくなったりすることはあります。
これは治療しても非常に直しづらいです。
・よく水面で横たわっていてそこを漁師にみつかり捕獲されて死亡
横たわっていて漁師に見つかるまではあると思います。
ただ、あまり売り物としては価値のあるものでは無いですし、捕獲といってもマンボウは大きいので数人がかりでクレーンを使うレベルなので、わざわざそこまでして価値の低い魚を捕獲することはあまり無いかと思います。
・皮膚が弱すぎて触っただけで痕が付きその傷が原因で死亡
これはある意味正解かもしれないです。
皮膚は確かに弱いです。
私達が持ち上げたりするとそこに手の跡がしっかり残るくらい弱いです。
一般的な魚と比べると遥かに弱いですね。
ただ、傷自体が原因で死ぬわけではなく、傷から感染症にかかり、それを放置しとくと死んでしまうことがあります。
それを極端に、過程を省いて言うと「触っただけで死亡」になってしまいますが、言い方ですよね。
・一度に産む卵約3億個のほとんどが他の動物に食べられて死亡
これはその通りです。
本当に大量に産みますし、その殆どが食べられてしまいます。
─やっぱりマンボウ最弱説の殆どが嘘、もしくは極端な言い方をしているだけなんですね
マンボウはけして弱いわけでもなく、魚の中でも一般的かなと思います。ただ、特徴として身体が大きいという事があります。
魚のサイズが大きいほど、採集の時や搬入する時の移動で大きな負担がかかってしまったり、傷ついてしまったりする場合があります。
そういうところが難しいと思います。
これはマンボウに限らず、ほとんどの大きな魚に言えることです。
なんですかね…(苦笑)
無脊椎動物の殆ど、クラゲとか弱いなぁって思います…
自分の意志で泳げないとか、状態が良いのか悪いのか見た目の判断が難しいですね。
お客さんの要望に答えることもあります。
ただ、常設の展示にはコンセプトが決まっているので、もうどく展のような特別展示になります。
現にもうどく展も、そもそもはお客さんの「最強の生き物が知りたい」という声から始まりました。
ただ、もちろん要望全てに応えられるわけではなく、基本的に飼育、展示して得られる知見などが役に立つならやります。
例えばそのネズッポの飼育技術や繁殖技術が必要な場合はチャレンジするんですが、そういうことがなければもっと先に日本の絶滅しそうな生き物たちを優先的にやりたいです。
カンボジアのネズッポを研究している間に日本の生物が絶滅してしまったら何をやってたの?という話になってしまうので、それはカンボジアの方たちにおまかせしたいです。
後は、展示効果として例えばそれが面白い特徴があって、是非お客さんに見せたいという何か特別な特徴があるんだったら、生物の多様性という観点からこんな生き物が世の中にいるんだよというように見てもらいたいというのはあります。
─それでは、そのような条件を満たしていれば、飼育例のない難しい生き物に挑戦することもあるんですか?
あります。例えばエイリアンフィッシュも日本初の飼育になります。
※エイリアンフィッシュは現在展示ではなくバックヤードでの飼育になります
後、今考えているのは新しいシードラゴンの仲間がオーストラリアに居るらしく、それは形的にも面白いので入れてみたいなという思いはあります。
ちなみに、なかがわ水遊園という淡水魚しか飼っていない水族館なんですが、そこの方たちは定期的にアマゾン川に採集に行ってるんですよ。
なかがわ水遊園はアマゾンの自然や現状を伝えたいというコンセプトなので、そういう生き物なら一番詳しいと思います。
長くなりそうなので続きは次回へ持ち越しです。
次は質問だけでなく、水族館の紹介をバックヤードも含めてしていきたいと思います。
アクアリウムに役立つお話もまだまだ出てきますのでお楽しみに!
後編
http://aqualbum.com/diary.php?id=1108
今回は池袋サンシャインシティ内のワールドインポートマートにあるサンシャイン水族館さんで、水族館の気になる質問をしてきたので一問一答のような形でご紹介します。
一般家庭の水槽にも応用できるテクニックもいくつか教えてもらったので是非ご覧ください!
飼育員さんはそれぞれ担当の生き物がいるようですが、飼育員さん達の中でも人気の担当、憧れの担当などはありますか?
それが実はないんです。
皆それぞれ担当を持っていて、最初は分からないですけど、2、3ヶ月もすると愛着が出てきて自分の担当が1番になります。
担当の場所が変わることがあっても、また3ヶ月もすると情が移って、以前担当していた所が1番だと言っていたのに今度は今担当している所が1番と言うようになります(笑)
やっぱり世話しているところが一番愛情が湧きますよね。
飼育員さんはプライベートでも生き物を飼っている方が多いんですか?
多いです。それも割りと担当じゃない生き物を飼ってます。
例えば魚類を担当している人は家ではあまり魚類を飼っていなくて、小動物を飼っていたりします。
逆に動物を担当している人は魚を飼ったりしています。
やっぱり仕事の延長みたいになってしまうので、知識もノウハウもあるんですがそれを家でやると、これは仕事と同じだよなぁと思ってしまうので(笑)
─確かに、仕事で換水して帰ってきたら家の水槽換水とか嫌ですもんね(笑)
後、面白いのはプロの動物トレーナーで、イルカとかアシカとかなんでもトレーニングしているのに、家で飼っている犬はお手くらいしかできないとか。
やっぱり仕事の延長になってしまうので、家では何も教えてないみたいです。
ただ、もちろん皆生き物好きでこの職業についているので、家で飼う生き物はこの職業に就く前のほうがマニアックでしたね。
元マニアの人が多いです。
水槽内のレイアウトや展示する生体はどのように決めているのでしょうか?
サンシャイン水族館には「南国のリゾート」「感動をお届けする」というコンセプトがあります。
そして、エリアごとにも例えば「珊瑚礁の海」等のコンセプトがあり、それぞれコンセプトに合ったレイアウトが基本になります。
まず、水槽の担当者がいるのですが、その担当者がこういう水槽にしたいという元案を出します。
それを、魚類の担当チームで話し合って決定しています。
後はもちろん飼育係とも話をして、例えばサンゴなら
「住んでる水深が違うから段差がないとダメだよ」
とか、
「この生き物は隠れ家がないとダメだよ」
等と相談して決まっていきます。
ちなみに、水族館ではなるべく水槽を広く見せるために
後ろの壁、水槽の角をなるべく見せないようにする
後ろのバックスクリーンもグラデーションを付けてる
という工夫をしています。
そうすると、角が見えないので奥行きが遠くまで続いているように錯覚し、水槽を広く見せることができます。
アクアリストの方も、例えばバックスクリーンを水槽の外に貼るのではなく、水槽の中にアクリル板を曲げて入れることで同じように工夫できると思います。
─アクアリウムでは水景を切り取ったようなイメージの水槽が多いけど、こういう広く見せる水槽も面白そうですね!
生体はどのように入手しているのでしょうか
業者さんから購入することが多いです。
と言っても、熱帯魚屋さんから買うわけではなく、卸の業者さんから購入しています。
流通していないものなどは漁師さんからも購入しています。
ただ、漁師さんは捕るのはうまいんですがストックしておくことが苦手なので、一緒に行くパターンが多いです。
とは言え水族館では海から捕ってきたりどっかから買うよりは、なるべく自分たちで繁殖させるという目的を持っていて、繁殖例のない生き物にもチャレンジしたりしています。
死んでしまった生き物はどのようにしているのですか?
全て解剖して、死因を調べています。
そしてもしそれがあっという間に広がりそうな病気だったらその水槽に治療薬を入れたりしますし、大きな魚や動物、肝臓が肥大していて異常だと思った魚などはそれ以外に病理検査を行います。
─そこまで徹底しているんですね
そうですね。
ただ長く生きればいいというだけじゃなく、魚達がより快適に、自然に近い状態で暮らせるようにと思ってそこは徹底しています。
水槽ごとの生体数(水量とのバランスなど)はどの様に決めているのですか?
基本的にはコンセプトがあり、優雅に見せたり、迫力満点にいっぱい見せたり、1匹だけを堂々と見せて注目してもらったり等のコンセプトに合わせた水槽になっています。
何匹入れられるかというのは、DOメーターで溶存酸素を見たりpHなどの水質を見ながら数を調節していきます。
─水質を見ながら数を調整するのは水族館も同じなんですね。水質的に大丈夫な範囲でなるべくたくさん入れようと思うこともあるんですか?
そういうのは無いです。見た時に一番栄える量にしています。
例えばイワシであればキラキラ感の群れの動きを見せたいというのが目的なので、それが達成できた時点でそれ以上は入れません。
コンセプトがありきですね。
イワシがぐるぐる泳ぎ回っている水槽。これだけの数なのでエアレーションにはかなり気を使っているらしいです。
自宅の水槽も同じように、まずコンセプトを決めてやると見栄えが良いと思いますよ。
私は何がしたい、何を育てたいというのをまず決める。
コンセプトが都度都度ズレていったり、お店に行った時にコンセプトが変わってしまうとゴチャゴチャの水槽になってしまいますよね。
─なりがちですね。分かっていても現実問題水槽の数が限られている一般家庭ではなかなか難しい…
飼育水はどの様に用意しているんですか?
海水は天然の沖合の方の海水を使っています。
淡水は水道水をハイポで中和して使っています。
そうなってくると気になるのは淡水水槽の水道代なのですが、さすがに金額的な部分は非公開ということでした。ちなみに、水族館で一番かかる経費はおそらく電気代との事です。
換水はどの様に行っているんですか?
日中長い時間をかけて少しずつ注水しています。
排水はオーバーフローになっています。
汚れてきたら換えるのではなく、水質のいい状態を保つために常に少しずつ換水している感じです。
頻度は毎日だったり数日に1度だったりと水槽によって異なります。
濾過の仕組みはどうなっているんですか?
圧力式濾過槽という物を使っています。
中身(ろ材)は珪砂のみで、そこに圧力をかけて水を通して汚れを取り除いています。
エーハイムなどの外部フィルターの中身が砂だけみたいなイメージです。
これがろ材に使われている珪砂。形、大きさ、コスト的にこれがベストなんだそうです。ボトムサンドや田砂みたいな感じですね
家庭の水槽で使われるような濾過と違うのは、ろ材の詰まりを圧力ゲージで確認できる所です。
水族館は生き物や餌が変わるため一定の汚れではありません。
なので定期的に掃除するのではなく、圧力計を毎日チェックして圧力に変化があったら(ろ材が詰まってくるとかかる圧力も変わる)掃除するようにしています。
逆に変化が無ければ掃除はしません。
掃除の仕方も、砂を取り出して洗うわけではなく、逆洗というやり方をしています。
普段は上から下に流れてろ材を通っている水を、逆に下から上へ吹き上げる事によって、中の砂が舞い上がり、砂は重さがあるため落ちていきますが、汚れは流れていきます。
それをバルブ操作でできるような仕組みになっています。
─逆洗めちゃくちゃ便利ですね!それにしてもろ材が砂のみというのは驚きでした。
マンボウの飼育は難しいと聞きますが、どのような点が難しいのでしょうか?また、飼育上気をつけていることや工夫していること等はありますか?
やっぱり神経質なので、フラッシュは焚かない、周りで作業する時に大きな音を出さない等、とにかく刺激を与えないように飼育しています。
後はビニールフェンスを張っていて、何かの拍子で驚いて激突しても大丈夫なようにしています。
特にマンボウはパワーがある分激突した際の衝撃ももの凄いです。
以下の様な「マンボウ最弱説」ネタがネット上で流行りましたが、実際どの程度の信憑性があるんでしょうか
・朝日が強過ぎて死亡
・海水の塩分が肌に染みたショックで死亡
・前から来たウミガメとぶつかる事を予感したストレスで死亡
これらは無いです、デタラメですね。
・近くに居た仲間が死亡したショックで死亡
・近くに居た仲間が死亡したショックで死亡した仲間から受けたストレスで死亡
これは言い方の問題なのですが、まずショックで死ぬってことはないです。
ただ、例えば2匹居たうちの1匹が死んでしまって、それを取り上げるためにダイバーが2、3人潜って作業をすることで、それにびっくりしてパニックになってしまうということはあります。
パニックで死ぬことはありませんが、パニックになったことで壁に衝突して傷ができてしまい、傷からバイキンが入って感染症になってしまって死んでしまうということは考えられます。
それを極端に言うと「近くに居たマンボウが死んだせいで死んだ」ってなってしまうかもしれませんが、間を端折りすぎなんですよね(笑)
・寄生虫殺すためにジャンプして水面に当たって死亡
ジャンプすることはありますが、それで死ぬってことはないです。
水族館なので、場所によって蓋があったりしますが、それに当たって死ぬってこともないです。
・まっすぐしか泳げないから岩に直撃して死亡
まっすぐしか泳げないってことはないです。
水槽を見ていただけるとわかりますが、しっかり泳いでいます。
・水中に潜って凍死
いくら下まで潜っても凍死することはないです。
・日にあたってたら鳥に突かれて死亡
これも無いと思います。
おそらく死んで浮いてたのを鳥が突いてたんじゃないですかね。
・寝てたら陸に打ち上げられて死亡
無いです。
弱ってたり元々死んでて陸に打ち上げられたりという事はありますが。
基本的に魚達は完全な睡眠というものはありません。
魚のタイプにもよりますが、人間と違って瞬間的に寝てる生き物が多いです。
例えば極端に言うと5秒起きてて1秒寝るを繰り返す脳のサイクルになっていて、人間みたいに何時間も寝るわけではないんです。
・食べた魚の骨が喉に詰まって死亡
これはありえると言えばありえます。
と言うのも、マンボウは自然界ではクラゲを主に食べているのですが、クラゲに骨はありませんよね?
魚を食べることはまずあまりないのですが、仮に魚を食べさせた場合はありえるという話です。
※サンシャイン水族館では甘エビとイカで作った柔らかい団子状の餌を与えています
─マンボウは自分から魚を食べることは無いんですか?
小さい小魚はあります。
ただ、その小魚の骨が詰まるということは無いです。
ありえるというのは大きな魚をもし食べさせたらの話ですね。
・エビやカニを食べることがありよく殻が内蔵に刺さって死亡
これも同じで、小さなものなら食べますがそれで死ぬことはありません。
仮に、大きなものを食べさせれば死んでしまうという話です。
・水中の泡が目に入ったストレスで死亡
ストレスで死亡することはないです。
ただ、魚の病気で気泡が目に入るという事はあって、それはマンボウにもあます。
なので、気泡が目に入って、死亡することはあまりないんですが、目が見えなくなったりすることはあります。
これは治療しても非常に直しづらいです。
・よく水面で横たわっていてそこを漁師にみつかり捕獲されて死亡
横たわっていて漁師に見つかるまではあると思います。
ただ、あまり売り物としては価値のあるものでは無いですし、捕獲といってもマンボウは大きいので数人がかりでクレーンを使うレベルなので、わざわざそこまでして価値の低い魚を捕獲することはあまり無いかと思います。
・皮膚が弱すぎて触っただけで痕が付きその傷が原因で死亡
これはある意味正解かもしれないです。
皮膚は確かに弱いです。
私達が持ち上げたりするとそこに手の跡がしっかり残るくらい弱いです。
一般的な魚と比べると遥かに弱いですね。
ただ、傷自体が原因で死ぬわけではなく、傷から感染症にかかり、それを放置しとくと死んでしまうことがあります。
それを極端に、過程を省いて言うと「触っただけで死亡」になってしまいますが、言い方ですよね。
・一度に産む卵約3億個のほとんどが他の動物に食べられて死亡
これはその通りです。
本当に大量に産みますし、その殆どが食べられてしまいます。
─やっぱりマンボウ最弱説の殆どが嘘、もしくは極端な言い方をしているだけなんですね
マンボウはけして弱いわけでもなく、魚の中でも一般的かなと思います。ただ、特徴として身体が大きいという事があります。
魚のサイズが大きいほど、採集の時や搬入する時の移動で大きな負担がかかってしまったり、傷ついてしまったりする場合があります。
そういうところが難しいと思います。
これはマンボウに限らず、ほとんどの大きな魚に言えることです。
それでは、本当に最弱だと思う生き物は何ですか?
なんですかね…(苦笑)
無脊椎動物の殆ど、クラゲとか弱いなぁって思います…
自分の意志で泳げないとか、状態が良いのか悪いのか見た目の判断が難しいですね。
「質問と言うかお願いなのですが、今後水族館では今まで飼育例の無い種類にガンガン挑戦してもらいたいですね。アマゾンのマパラッチとかカンボジアの淡水ネズッポとか、オーストラリアの様々な固有種とか、手間とコストの割に集客できないようなやつらです」という非常にマニアックな声もあったのですが、実際にお客さんの要望に答えて展示を決めることもありますか?
お客さんの要望に答えることもあります。
ただ、常設の展示にはコンセプトが決まっているので、もうどく展のような特別展示になります。
現にもうどく展も、そもそもはお客さんの「最強の生き物が知りたい」という声から始まりました。
ただ、もちろん要望全てに応えられるわけではなく、基本的に飼育、展示して得られる知見などが役に立つならやります。
例えばそのネズッポの飼育技術や繁殖技術が必要な場合はチャレンジするんですが、そういうことがなければもっと先に日本の絶滅しそうな生き物たちを優先的にやりたいです。
カンボジアのネズッポを研究している間に日本の生物が絶滅してしまったら何をやってたの?という話になってしまうので、それはカンボジアの方たちにおまかせしたいです。
後は、展示効果として例えばそれが面白い特徴があって、是非お客さんに見せたいという何か特別な特徴があるんだったら、生物の多様性という観点からこんな生き物が世の中にいるんだよというように見てもらいたいというのはあります。
─それでは、そのような条件を満たしていれば、飼育例のない難しい生き物に挑戦することもあるんですか?
あります。例えばエイリアンフィッシュも日本初の飼育になります。
※エイリアンフィッシュは現在展示ではなくバックヤードでの飼育になります
後、今考えているのは新しいシードラゴンの仲間がオーストラリアに居るらしく、それは形的にも面白いので入れてみたいなという思いはあります。
ちなみに、なかがわ水遊園という淡水魚しか飼っていない水族館なんですが、そこの方たちは定期的にアマゾン川に採集に行ってるんですよ。
なかがわ水遊園はアマゾンの自然や現状を伝えたいというコンセプトなので、そういう生き物なら一番詳しいと思います。
まだまだ続くインタビュー
長くなりそうなので続きは次回へ持ち越しです。
次は質問だけでなく、水族館の紹介をバックヤードも含めてしていきたいと思います。
アクアリウムに役立つお話もまだまだ出てきますのでお楽しみに!
後編
http://aqualbum.com/diary.php?id=1108
スポンサーリンク
[13]返信
みやや
2017年3月31日
色々な話が聞けてありがたいです! 逆洗メンテはいつか バカでかい外部的なろ過を持った日には実戦したいですね! |
[12]返信
六花
2017年3月31日
バックスクリーンを内側に角が見えないように置くやり方やってみたいです! やっぱり本職?の方の意見は参考になりますね〜 どの質問に対する答えも読んでて面白いです!後編も楽しみに待ってます(*´ω`*) |
[11]返信
アクアルバム公式
2017年3月30日
>>2 そのアイディア、水族館の方も賛同してました。 |
[10]返信
テケトウ
2017年3月29日
ろ過機はすごいですねぇ ぜひ自作してみたいところです すごいお金掛かりそうですが 溶岩石の小さい粒でやりたい |
[9]返信
KT2
2017年3月29日
濾過器すごーい😳 |
[8]返信
Hanekko
2017年3月29日
面白い内容でした。水質管理のところをもうちょい聞きたかったなぁ。 砂濾過だからSS取るだけで、基本は換水という感じですかね~。 >>2 賢い! >>4 レッツトライ!! |
[7]返信
コリだらス
2017年3月29日
圧で目詰まりを確認できるシステムめっちゃいいなー(><) やはり大量にろ材使う場合は砂になるんですね! 大きな濾過器には多孔質ろ材など必要ないんだなー マンボウめっちゃ可愛い(^-^) |
[6]返信
たみ
2017年3月29日
遊泳スペース減りますけどアクリル板で奥のコーナー隠してそこに給排水やヒーター隠してってできそうですね🤤 |
[5]返信
ぽたもが~れ
2017年3月29日
自分の変な質問も聞いてくださり有難う御座います。 確かにマイナー種の展示はそれ相応の価値を見いだしたり様々な条件をクリアしないといけないので難しいですね。 そしてまさかのルビーシードラゴンの展示ですか!?頑張って頂きたいです。 あとなかがわ水遊園さんは行ったことはないのですが珍しい細長いタイプのカンディルが展示されているようなので気になっています。 |
[4]返信
もちもち
2017年3月28日
内容が多彩で面白かったです(*´∀`*)マンボウのご飯は鍋の具そっくりでおいしそうw濾過槽は砂なんですね~意外でしたが逆噴射で汚れのみ除去できるのは最高ですね理にかなっててプロだなぁと感じました(*´ェ`*) あああ↓バックスクリーンの件wなるほどすごいwやってみたい(・∀・)うち前Rが3個もあるw |
[3]返信
メルツェン
2017年3月28日
怒涛のマンボウ押しw 砂ろ材、家庭環境だとあっという間にインペラがぶっ壊れそうな(;^ω^) OFとかなら可能でしょうか。 次回も楽しみですわー(*´∀`) >>2 奇才現る |
[2]返信
iori
2017年3月28日
バックスクリーンの工夫は実に面白い話だと思いました。 つまりこれは角Rや前R水槽などは実はR面を後ろにして使った方が効果的だということなんじゃないかと・・・ うわちょっとやってみたくなるじゃないですか。 |
[1]返信
riparian
2017年3月28日
非常に濃い内容なので何にコメントしていいのか逆に解らなくなりますね マンボウのことが今回は詳しく知れたので面白かったです。 圧力式濾過槽の記事が非常に興味がある内容でしたし、エイリアンフィッシュ初めて知りました口を広げた姿はまさしくエイリアン👄 |